FTP(Functional Threshold Power)、あるいはFTPを体重で割ったPWR(Power Weight Ratio)はロードバイクに乗る人ならば1度は聞いたことがある言葉だと思います。「富士ヒルでシルバーを取るためにPWR 4.x kg/w」など具体的に目標を立ててトレーニングしている方も多いと思います。
反面、FTPは非常によく使われていることもあり、逆に批判的な意見も多いです。
そこで、ここではFTPについての私の理解をまとめたいと思います。
最初に言うと、私は「FTPは理解して使えば、特に初心者ライダー、ホビーレーサーにとっては十分有用」というスタンスなので、どちらかというとFTPを擁護するような話になりますので予めご承知おきください。
そもそもFTPとは
そもそもFTPとは何かですが、FTPの最も基本的な定義は
FTP ≡ 「1時間維持できる最大パワー」(watt)
になります。現実には (後述するように) 異なる定義で計測されたFTP"推定値"の方が一般的だったりしますが、教科書的なFTPの定義は上記になります。
なぜFTP(PWR)が広く使われているのか
FTP (PWR)が広まっている理由ですが、1つには「走力についての分かりやすい指標だから」というのがあります。例えば、
- PWR = 4.0kg/w ならばホビーレーサーとしては結構トレーニングしているな、とか。
- 東京-大阪キャノンボール達成するならFTP 2xx(w)以上必要、とか。
という感じですね。
もちろんFTPで全てが決まるわけではないですが、分かりやすくて便利な指標となっているというのはあると思います。
しかし、それよりも実践的な用途は、トレーニングの負荷設定に使うというものです。トレーニングの負荷をゾーンと言って、細かいことを言うとその定義も色々あるのですが、FTPを使った以下のような定義が広く使われています。
| ゾーン |
名称 |
%FTP |
典型の持続/感覚 |
主な目的 |
| Z1 |
Active Recovery |
<55% |
とても楽、会話余裕 |
回復、循環促進 |
| Z2 |
Endurance |
56–75% |
楽〜やや楽、長時間持続 |
有酸素基礎、脂質代謝 |
| Z3 |
Tempo |
76–90% |
ややキツい、会話途切れがち |
持久力と筋持久の橋渡し |
| SS |
Sweet Spot |
88–94% |
キツいが維持可 |
時間効率よくFTP耐性向上 |
| Z4 |
Threshold |
91–105% |
かなりキツい、集中必須 |
FTP向上・TTE延長 |
| Z5 |
VO2 Max |
106–120% |
とてもキツい、数分が限界 |
有酸素最大能力向上 |
| Z6 |
Anaerobic |
121–150% |
30秒〜2分が限界 |
無酸素容量・耐乳酸 |
| Z7 |
Neuromuscular |
最大 |
数秒スプリント |
神経系・最大出力 |
表のように、FTPに対して何%の出力を出すかでゾーンが決められますが、重要なのは何%という数値よりも「主な目的」の部分で、要はゾーンごとに体の使い方(トレーニング効果)が違ってくるということです。
そのため、このゾーンを正しく理解して負荷を設定することで、より効率的なトレーニングができることになります。スプリント能力を強化したいならばZ6、Z7でトレーニングすべきですし、ヒルクライム力を鍛えたいならばSS、Z4を重点的に行なえばいい、というような話です。
パワートレーニングの黎明期に 「FTPを基準にゾーン設定するとよい」という説が広まったことで、FTPの認知度が高まりました。
ただ、実際には、FTP比と体の使い方の関係は個人差が非常に大きく、この表はあくまで目安になります。
FTPの測定方法
最初に書いたとおり、FTPの基本的な「1時間維持できる最大パワー」ですが、1時間を最大パワーで漕ぎ続けるのはキツすぎて時間もかかるので、1時間パワーとして計測する人はほとんどいません。(私も計測したことはありません)
その代わりに以下のような方法で測定されることが多いです。
- 20分パワー : 20分走の平均パワーを測定し、その95%をFTPとする。
- Ramp Test : 1分ごとに徐々にパワーを上げていくRamp Testを実施し、最大パワーの75%をFTPとする。
- AI推定 : TrainerRoadというサービスでは、そもそもFTPテストを実施しなくても、過去のワークアウトの実施結果からFTPをAIで推定してくれます。
AI推定は別として、基本的には「より短かい時間の最大パワーを計測し、それに係数を掛けることでFTPを算出する」というものです。なんでこんなことが可能かというと、ゾーン表で説明した通り、「各ゾーンの最大パワーはFTPと相関がある」という説があるからです。
ただ、ゾーンとFTPの関係は個人差が大きいので、このように計算したFTPは個人差が大きいです。
端的な例はいわゆる脚質です。
クライマー脚質の方はSweet SpotやThresholdが得意な傾向があるので、Ramp TestでFTPを計測すると比較的低めの数値が出ますし、逆にスプリンター脚質の方は短時間パワーが高い傾向があるのでRamp Testでは比較的高めの数値が出やすくなります。
これはつまり、突き詰めて言えば、結局のところ、20分走で測っているのは20分走力であり、Ramp Testで測っているのはvo2max(に近い)走力ということになります。
このように、同じFTPという言葉を使いならが、測定方法によって異なるものを測定している、つまり実質的に定義の異なるFTPが乱立している、というのがややこしいところです。
FTPに対する批判
このように、実質的な定義が乱立しているFTPだけに、様々な視点から批判も出ています。視点が変われば見え方が変わるので本当に様々な言い方がなされていますが、結局のところ
「1時間パワーと、各ゾーンのパワーの関係は人それぞれ」
ということに尽きると思います。
これを、「FTP = 1時間パワー」と元々の定義で捉えている人からすれば、「1時間パワーから、各ゾーンのパワーを設定するのは不適切」、「FTPはインターバルトレーニングの負荷設定の役に立たない」となる一方で、FTPをRamp Testで測定している人からすると、FTPを使うことでそこそこ良い負荷設定ができる、となります。
またどんな測定方法であっても結局ある1つのゾーンでの走力でしかないので、「レースでの速さとFTPの高さは別物」という批判もなされています。
どの批判も的を射ているものではありますが、FTP測定を理解していればある意味当り前のことでもあります。
ではどうすればいいのか?
ではどうすればいいかですが、まずレース上位を狙うシリアスレーサーの方は、FTPのようなただ1つの指標を使うのではなく、各ゾーンごとにパワーを測定するのがよいでしょう。
かの有名な「パワー・トレーニング・バイブル」では、(1)5秒パワー、(2)1分パワー、(3)5分パワー、(4) 1時間パワーを測定することが推奨されています。それは、それぞれ(1)神経筋パワー、(2)無酸素運動容量、(3)vo2max能力、(4)乳酸閾値 を示すから、とのことです。
走力テストはかなりキツいので、それを細かく何度も計測するというのは気が重いですが、レースで上位を目指す人はどうか頑張ってください。
そこまでは、というホビーレーサーの方には引き続きFTPは有用だと思います。自分の走力を数値として把握し、トレーニングプランの作成や、効果測定に使うのにはやはり便利な指標だと思います。
測定方法によって実質的に違うものを測定するというのは要注意ですが、FTPの実用的な用途としてはインターバルトレーニングの負荷設定だと思うので、それに近いRamp Testで測定するのがよいと思います。
「それだったら最初から5分パワーとして測定した方がよい」という声もあるかもしれませんが、「富士ヒルシルバーを目指すならPWR 4.xx (w/kg)が目安」など語られることは多いので、そういうのを参考にするためにも自分のFTP値を知っておくのはよいと思います。
恐らく、レース経験を積み重ねていくと、そういった単純は参考にならなくなってくると思いますが、その時こそFTPを卒業する時なのだと思います。